2022年11月3日

ティーフロート

‌ ‌14時すぎに渋谷のサロンから出た。この街がクラブゼロでの夜を包囲しているなんてとても思えない。小粋さのない街。天皇陛下の写真にはグラフィティの「FUCK」がレイヤード。

    15時すぎの川崎駅。大きくて汚い駅だ。菊地成孔のためじゃなきゃ一生足を踏み入れないだろう。朝10時に飲んだティーフロートは嗚咽寸前の放蕩に誘い、少し怯んだ私は上にそびえ立つアイスクリームをメープルシロップ入りの紅茶に思い切り溶かし、それを流し込んだ。強烈な嘔吐感に見舞われ、トイレの便座の中へ静かに嘔吐した。朝食を食べなかったせいか、喉がなだらかに焼けていくように痛かった。そういうわけで胃の中が空っぽで何かが突き刺さったような痛みを感じていた私は今すぐ何か胃の中に入れたかった。隣接しているショッピングモールのクアアイナに行く。スマホの充電はごく僅かだ。鞄から三島由紀夫の「美徳のよろめき」を取り出し読んだ。ハンバーガーにかぶりつくときの自分の顔を想像しながら希望を失っていく。


今日の用事は、菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールのコンサートだった。駅に入った瞬間は少々面食らったものの、なかなかダルい街。嫌いじゃない。と、終演後には思ったのだった(笑)。

今日のハイライトは、間違いなくアンコール一曲目「色悪」中に起きた地震に違いない。

シッティングのもどかしさを感じながら足を踏み鳴らし、身体をよじらせながら陶酔に陥っていく観客たちが、揺れに気づきただひととき現実を意識する。そのコンマ数秒後に死を意識し、そのまたコンマ数秒後には陶酔に溺れたまま死んでしまいたいという妖気を放ちながら舞台に過集中する視線。わたしはというと、隣の席の男性と顔を見合わせ、やべー空気(笑)という感覚を目線だけで共有して、つまりはっきり萎えてしまったのだが、家に帰れば徒な現実が待ち受けているのだからそれは健康的だったろう。肌で「地震はワクワクする」という人達の奇妙な連帯感と高揚感に触れ、靴擦れの痛みも限界を超えていた。病的な長さのブログにコメントを送信し、今日は眠ることにしたいと思う。

 

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文の通り、去年川崎にジャズを聴きに行った時の記録を、加筆修正したものです。色々と楽しいこと、恐ろしいこと、悲しいこと経験したのに、文章の作り方がへたっぴであまりうまくないですね。ぺぺのコンサートはいつになっちゃうんだろうね……。

どうか菊地さんいつまでもお元気で。サックスだけはやめないでくださいね。